インプラント治療は決して最新の治療法ではありません。歯が抜けたところに人工の歯根を埋め込み、その根に人工の歯を取り付けるという方法は、ごく自然な発想であり、実際に太古の時代から行われていました。 そして、主にインプラントの材質について、様々な試みがなされましたが、その成功率は低く、インプラント治療は信頼できない治療法として、ほとんどの歯科医師から白い目で見られてきました。 |
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ところが、あるきっかけにより、インプラント治療の成功率が劇的に高まったのです。それは免荷治癒期間(めんかちゆきかん)という概念の発見です。インプラントを埋入してから数ヶ月間、インプラントに力がかからないようにしておくと、インプラントと骨がしっかりとくっつく事がわかったのです。このように、埋入されたインプラントと骨がしっかりとくっつく事をオッセオインテグレーションといいます。そして埋入されたインプラントがオッセオインテグレーションした後に最終的な歯を入れるという方法が確立された事によって、インプラント治療の成功率が劇的に高まったのです。 つまり、今日のインプラント治療の高い成功率は、埋入されたインプラントがオッセオインテグレーションする事によりもたらされたものであり、それはインプラント埋入後に数ヶ月間の免荷治癒期間をおくことにより達成されるのです。 インプラント治療では、最終的な歯が入るまでに、かなりの期間がかかります。もっと早く歯を入れたいと考えるのは当然の欲求です。そして実際に、最近のインプラント治療は、その方向に確実に進んでいます。早期負荷と即時負荷です。早期負荷とは、インプラントを埋入してから歯を入れるまでの期間を短縮することで、即時負荷とは、インプラントを埋入したらすぐに歯を入れることをいいます。 早期負荷は、インプラント埋入後1〜2ヶ月以上の期間をおいて、インプラントがオッセオインテグレーションしてから歯を入れる方法です。インプラントを埋入した後の免荷治癒期間は、上顎で5〜6ヶ月、下顎で3ヶ月程度が標準でしたが、この期間を短縮しようというものです。これを可能にするためには、インプラントの形態や表面性状の改良が大きくものをいいます。つまり、早期負荷は、より早くオッセオインテグレーションするインプラントの開発によって可能になってきたのです。どのくらい早くオッセオインテグレーションするかについての信頼できるデータはほとんどないので、あまり無理はできませんが、より早くオッセオインテグレーションするようになってきているのは事実のようです。 これに対して、即時負荷はインプラントを埋入したらすぐに歯を入れる方法です。免荷治癒期間が全くないので、この時点ではまだオッセオインテグレーションはしていません。ここが早期負荷と大きく異なるところです。もう一度思い出してみましょう。インプラント治療が今日のような高い成功率を得られるようになったのは、埋入後免荷治癒期間をおくことによって、インプラントがオッセオインテグレーションするようになったからでしたね。つまり即時負荷は、今日のインプラント治療に高い成功率をもたらすようになった原理原則を守っていない治療法です。当然、成功率は従来の治療法にはかないません。 即時負荷が成功するのは、非常に条件の良い、ごく一部の症例に限られます。そして問題は、成功する症例を見極める為の基準やその検査方法について、あまりにもわかっていない事が多すぎるということです。そのため、高い成功率を得る為には、いわゆる名医の勘が必要になります。 多数のインプラントを埋入する場合などでは、最終的な歯が入るまで、仮の歯をどうするかという問題は、インプラントの治療計画の中で最も我々の頭を悩ませる問題です。即時負荷は、この問題を一気に解決してくれる代わりに、成功率という非常に大切な問題を犠牲にしているのです。(ごく一部の名医の場合は別ですが) インプラント治療は、急がないで一つ一つを確実に行っていけば、100パーセントに近い成功率が得られるのです。即時負荷を選択肢に入れる時には、この事を念頭におき、十分に考察した上で選択しなければなりません。 10年が経過しました。 上の説明文をアップしてからちょうど10年が経過しました。現在でも即時負荷が通常よりもリスクが高い治療法であることは変わりませんが、この10年の間には即時負荷を成功させるためのノウハウが蓄積され、以前ほど危険な治療法ではなくなりつつあります。とは言え、即時負荷を成功させるのはそう簡単なことではありません。そのため現在でも日常臨床で即時負荷を行なっている歯科医師はごく少数です。 当院について言えば、現在私はILSC即時荷重研究会というところに所属し、即時荷重(即時負荷)についての研鑽を積んでいるところです。今後は治療中にQOLが著しく低下するようなケースでは即時荷重も選択肢の一つとして考えていけたらなと思っています。 |
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