歯科医院でなされる虫歯治療は、ほとんどの治療が2回目以降の再治療です。最初は小さい虫歯であった歯が治療後にまた虫歯になり、何度か治療を繰り返すうちに神経まで進行し、通常はここで神経を取る治療が行われます。神経が無くなった歯は急激に弱くなり、最終的には脆くなった根っこが割れてしまって抜歯されてしまいます。これが虫歯になった歯が辿る典型的な一生です。 皆さん、お口の中を眺めながら思い出してみて下さい。今まで悪くなって治療した歯は、以前治療した歯の再治療ばかりですね。とくに大人になってからは、それまで治療したことのない歯が虫歯になることはそれほど多くはありません。この項ではまず、できるだけ再治療にならない虫歯の治療について説明致します。その次に、抜歯宣告された歯を救出するための治療について説明致します。 |
虫歯になった歯の典型的な一生について説明します。 |
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歯はエナメル質という非常に強い層で覆われています。エナメル質が破壊されない限り、歯は簡単には虫歯になりませんが、いったんこれが破壊されると、途端に弱くなり、僅かな刺激にも抵抗できなくなってしまいます。 |
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歯の溝の黒い部分が虫歯です。症状もほとんど無い初期の虫歯です。最初は皆、この位から始まるのです。この状態を甘く見てはいけません。この時にしっかりとした治療をしておくことが大切です。 |
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初期の虫歯を放置していたり、あるいは治療後の歯がまた虫歯になっりして、神経まで進行してしまいました。ここまで進行すると、通常は神経を取る治療になります。ここで、神経を取らない特殊な治療をしておくと、歯の寿命が大きく違ってきます。 |
歯は木の枝と同じです。生きている時はとてもしなやかで、簡単には折れたりしません。ところが、いったん枯れ木になるとどんどん脆くなり、数年後には水分が完全に抜け、手で触れただけで簡単に折れてしまいます。歯も神経を取ると急激に脆くなり、数年から10年くらい経った頃から根が割れる確率が非常に高くなってきます。根が割れた歯は通常は抜歯になります。 虫歯の治療では、ばい菌に感染した虫歯の部分は全部取り除くのが基本です。したがって、虫歯が神経のところまで進行していたら、神経が露出してしまいます。この場合、神経を取るのが一般的な治療法です。神経を取られた歯は脆くなり、先ほど説明したような経過を辿ることになります。 ドックベストセメントを使った治療では、ばい菌に感染した部分を残します。したがって、神経まで進行した虫歯でも神経を取らないで治療します。ドックベストセメントには優れた殺菌力があり、しかもその殺菌力は半永久的に持続します。取らないで残した虫歯の部分にドックベストセメントを浸透させると、その優れた持続的な殺菌力によりばい菌が死滅します。その上からしっかりと封鎖し、その後は通常の虫歯治療と同じように、詰めたり被せたりします。この治療は米国などでは一般的に行われていますが、日本では未認可のため保険ではできません。保険でできない処置をした歯に被せる時は、被せる歯の費用も保険外になります。 |
既に神経が取られている歯に被せる治療をする場合、ある程度多くの歯質が残っている時は土台を入れる事なく被せる事ができます。(土台については下のイラストを参照して下さい。)ところが、さらに進行した虫歯で、歯質があまり残っていない時は被せるための土台が必要になります。この土台こそ、根っこが割れる最大の原因なのです。 |
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先ほどのイラストの状態から、さらに虫歯が進行した状態です。ほぼ根っこだけの状態になっています。ここからの治療の仕方が歯の寿命を大きく変えてしまうのです。 |
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このイラストの状態は、歯肉の外にまだ少し歯が残っています。そのため、土台と被せ物の間に挟まれた歯があります。この状態を「フェルールが確保されている」と表現します。 |
虫歯が進行して神経を取ってしまっても、最初のうちはまだ歯質が結構残っている事が多いので、大抵はフェルールは確保されています。ところが、ほとんど根っこだけの状態になってしまうと、フェルールを確保する事が困難になってきます。 |
このようにメタルコア(土台)と被せ物の間に歯がない状態を「フェルールが確保されていない」と表現します。 |
フェルールが確保されているかいないかの違いは、このページをご覧になっている皆様の想像を遥かに超えるものです。金属の硬い土台(メタルコア)が根っこが割れる大きな原因の一つであることは確かです。その証拠に根っこが割れて抜歯される歯は、ほとんどが金属の土台(メタルコア)が装着された歯です。そのため、最近では根っこの破折の防止のため、ファイバーポストというしなやかな材質の土台が使用されるようになってきました。しかし実は、フェルールの確保は土台の材質よりももっと大切なことなのです。虫歯になった歯の寿命は、その多くは神経が取られた後、根っこが割れる事によって終わりを迎えます。フェルールが確保されている歯は、たとえ神経がなくなって脆くなっている歯でも、根が割れる確率は格段に少なくなるのです。 上のイラストのように、そのままではフェルールを確保できない歯に被せる時は、フェルールを確保するための方法がいくつかあります。 (1)根の周りの骨を削って骨とともに歯肉の位置を下げると、歯肉の中に埋もれていた根の一部を歯肉の外に出すことができます。これを「歯冠長延長術」といいます。1本ではなく、隣り合った複数本の歯にフェルールを確保したい時によく行われます。 (2)簡単な矯正をして、根を引っ張り上げることによって骨の中に埋まっていた部分を歯肉の外に出す「矯正的挺出」は非常にポピュラーな処置で、フェルールを確保するための最も一般的な方法です。 (3)根をいったん抜歯した後、抜いたところに元の位置より浮かせた状態で戻して固定する「外科的挺出」は勝負が早いので、患者様の負担が比較的少ない方法です。(こんな事で歯が再び骨とくっつくのかと思われる方は、「歯の移植」の項をご覧下さい。)この処置は、残っている根の厚みが薄い場合や、根っこが大きく曲がっているなど、、抜歯することによって根が割れてしまう可能性が高い時はできません。 それでは、フェルールを確保するための最も一般的な方法である「矯正的挺出」の症例をお見せしましょう。 |
虫歯が歯肉の奥深く、骨のところまで進行しています。他の歯科医院で抜歯宣告されて当院に来院されました。 |
「矯正的挺出」を行い、抜歯を回避できた上、フェルールも確保できる状態になりました。 |
フェルールを確保する処置は残念ながら保険ではできません。保険でできない処置をした歯に被せる時は、被せる歯の費用も保険外になります。 |
もう一度、典型的な歯の一生について復習してみましょう。虫歯が神経まで進行し、神経が取られてしまうと歯は急激に脆くなり、数年から10年後には根っこが割れてしまう確率が非常に高くなります。これを歯根破折といいます。「フェルールの確保」の項で説明したような方法を駆使し、最善を尽くして治療をしたとしても、歯根破折をゼロにすることはできません。ましてや、通常の方法で治療された歯には、最終的にはかなりの確率で歯根破折が起こります。 歯根破折した歯は通常は抜歯されます。歯根破折イコール抜歯というのが歯科治療の常識です。ところがこのような状態になっても、どうしても抜きたくない、自分の歯は何としてでも残したいと思われる患者さんはたくさんおられます。 「破折歯根接着保存療法」は、歯根破折した歯を元通りに修復し、再び使えるようにする治療法です。 |
これは歯根破折で抜歯された歯です。根の中に見える黒い部分は金属の土台です。土台が歯根破折の大きな原因である事がよくわかります。そしてフェルールの確保の大切さもよくわかります。当院ではこの程度の歯根破折は十分に修復可能です。 |
当院では、このように破折した歯根も「破折歯根接着保存療法」によって、抜かずに治療する事ができます。この方法は、すべての歯根破折歯に適応できるわけではありませんが、この写真のような状態であれば十分に適応できます。また、まだ完全には割れていないけれどもヒビが入っている根も修復することができます。 さらに、この技術は破折していない歯の治療にも応用できます。「破折歯根接着保存療法」の技術を、まだ破折していない通常の虫歯治療に応用する事によって、将来の歯根破折を限りなくゼロに近づける歯科治療ができます。 「破折歯根接着保存療法」は残念ながら保険ではできません。保険でできない処置をした歯に被せる時は、被せる歯の費用も保険外になります。 |
虫歯が歯肉の中まで進行すると、通常は抜歯するしかありません。このようなときでも、さきほど「フェルールの確保」のところで説明した、「歯冠長延長術」「矯正的挺出」または「外科的挺出」によって、抜歯しないで使えることがあります。また、不幸にして根っこが割れてしまった時でも「破折歯根接着保存療法」という治療法もあります。当院では、これらの方法で他院で抜歯宣告された歯をたくさん救出してきました。抜歯してからでは助ける事はできません。抜歯宣告されたけれど、どうしても残したいあなた。まだ救出可能かも知れません。 |
いかがでしたか。「神経を取らない治療」と「フェルールの確保」それから「破折歯根接着保存療法」、いずれもこれだけではお口の中に何かが入る訳ではありませんが、少しでも歯を長持ちさせるためには、被せる歯の材質などよりはるかに大切なことです。これらは、すでに相当進行した状態の歯に行われる治療です。治療不可能になる前に、一日でも早く治療を開始する事が大切です。興味のある方は、今すぐご連絡下さい。 |
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